大阪で中小企業の採用支援をしている西岡由紀です。
その前は関西の求人広告代理店で12年、求人原稿を作る営業をしていました。
営業先には、飲食店や工場と並んで派遣会社もたくさんありました。
派遣スタッフを集めるための求人広告を出してくれるお得意さんです。
ところが担当しているあいだに、そのお得意さんの顔ぶれが何度か入れ替わりました。
法律が変わるたびに、廃業する会社、看板を掛け替える会社、派遣をやめて別の商売に移る会社が出てきたからです。
この記事では、労働者派遣法の主な改正を年表で整理し、人材業界で実際に何が起きたかを厚生労働省などの数字で振り返ります。
派遣を使っている経営者や人事担当の方、人材業界で働く方、派遣で働いている方に、今の業界がどうしてこうなっているのかをつかんでもらえればうれしいです。
Contents
労働者派遣法の主な改正を年表で見る
労働者派遣法は1985年に制定され、翌1986年に施行されました。
それから40年のあいだに、大きな改正が何度もありました。
| 年 | 主な中身 |
|---|---|
| 1986年 | 施行。派遣できるのは専門的な13業務だけ(すぐ16業務に) |
| 1996年 | 対象を26業務に拡大 |
| 1999年 | 原則自由化。建設・港湾運送・警備・医療・製造などを除き派遣できるように |
| 2004年 | 製造業務への派遣を解禁 |
| 2012年 | 法律の名前に「派遣労働者の保護」を明記。日雇派遣を原則禁止 |
| 2015年 | すべての派遣事業を許可制に。受け入れ期間は原則3年に |
| 2020年 | 派遣労働者の同一労働同一賃金 |
| 2026年10月 | 待遇差の説明などに関する省令・指針の改正 |
ざっくり言えば、2004年までは「派遣できる範囲を広げる」改正でした。
流れが変わったのは2012年からで、そこから先は「派遣で働く人を守る」ためのルールが積み重なっています。
業界の顔ぶれが大きく入れ替わったのも、この後半の時期です。
ここからは2012年以降の改正を順番に見ていきます。
2012年改正:日雇派遣が原則禁止に
2012年10月に施行された改正で、法律の名前そのものが「派遣労働者の保護等に関する法律」に改められました。
主な中身は次のとおりです。
- 日々または30日以内の雇用で派遣する「日雇派遣」の原則禁止
- グループ企業内への派遣は全体の8割まで
- 辞めてから1年以内の元社員を、派遣で元の職場に戻すことの禁止
- マージン率(派遣料金のうち派遣会社の取り分の割合)などの公開義務
日雇派遣には例外があり、60歳以上の人、昼間の学生、一定以上の収入がある人の副業などは続けられます。
それでも、倉庫の仕分けやイベント設営のような単発の仕事は、派遣で回すのが難しくなりました。
当時、私の担当エリアでも「短期のアルバイトを直接雇いたいので、求人を出したい」という相談が増えた記憶があります。
派遣で埋めていた穴を、直接雇用の募集で埋めにいったわけです。
人材会社の側も動きました。
日雇派遣を手がけていたフルキャストホールディングスは、公式サイトの沿革に「2012年10月 日雇い派遣に代わる新サービスとして、短期人材紹介」を始めたと記しています。
2015年改正:派遣会社の数がほぼ半分に
業界への影響がいちばん大きかったのは、2015年9月30日に施行された改正です。
届出だけで始められた特定派遣がなくなった
それまで派遣事業には2種類ありました。
登録型も扱える「一般派遣」は許可制で、自社で常に雇っている社員だけを派遣する「特定派遣」は届出だけで始められました。
2015年の改正で特定派遣は廃止され、すべての派遣事業が許可制になりました。
特定派遣の会社は、経過措置で2018年9月29日までは許可なしで続けられましたが、その後も続けるには許可を取る必要がありました。
許可の条件には、お金の面のハードルもあります。
厚生労働省の業務取扱要領では、純資産にあたる基準資産額が1事業所につき2,000万円以上、現金・預金が1,500万円以上とされています。
社員を数人抱えて特定派遣をしていた小さな会社には、簡単に越えられない金額でした。
数字で見る派遣元事業所の数
厚生労働省の派遣元事業所数の推移を見ると、変化ははっきりしています。
| 年度末 | 派遣元事業所の合計 | うち(旧)特定派遣 |
|---|---|---|
| 2014年度 | 85,227 | 67,631 |
| 2015年度 | 85,649 | 67,370 |
| 2016年度 | 80,283 | 58,840 |
| 2017年度 | 76,881 | 48,472 |
| 2018年度 | 43,336 | 1,218 |
| 2025年度 | 44,770 | 0 |
経過措置が切れた2018年度末には、合計がピークの85,649から43,336まで減りました。
ほぼ半分です。
その後は4万4千前後で横ばいが続いています。
特定派遣は、IT企業や設計会社が自社のエンジニアを取引先に常駐させる形でよく使われていました。
許可を取った会社もあれば、請負や準委任の契約に切り替えた会社、派遣の看板を下ろした会社もあります。
事業所の数が半分になったのは、そのすべてを合わせた結果です。
派遣で働く人に関わる3年ルール
同じ改正で、派遣の受け入れ期間のルールも変わりました。
同じ派遣先の同じ課で同じ人が働けるのは、原則3年までです。
派遣会社に無期雇用されている人や60歳以上の人は、この期間制限の対象外になります。
3年たったとき、派遣会社は派遣先に直接雇用を頼む、別の派遣先を紹介する、自社で無期雇用にする、といった「雇用安定措置」を取る必要があります。
計画的な教育訓練などのキャリアアップ措置も義務になりました。
細かいルールは厚生労働省の平成27年労働者派遣法の改正についてにまとまっています。
2020年の同一労働同一賃金で派遣料金が上がった
2020年4月からは、派遣で働く人の待遇を、派遣先の社員と比べて不合理な差がないように決めることが義務になりました。
決め方は2通りあります。
派遣先の社員の待遇に合わせる「派遣先均等・均衡方式」と、派遣会社が労働者代表と協定を結んで一般的な賃金水準以上に決める「労使協定方式」です。
施行の翌年に労働政策研究・研修機構(JILPT)が行った派遣元事業所へのアンケートでは、「労使協定方式のみ」が83.3%でした。
ほとんどの派遣会社が協定方式を選んだことになります。
派遣先ごとに社員の待遇を聞き取って合わせるのは手間がかかるので、自然な選択だと思います。
同じ調査で2018年度と比べると、派遣で働く人の賃金は平均で3.3%上がり、派遣会社が受け取る派遣料金は11.7%上がっていました。
通勤手当や退職金が出る割合も増えています。
派遣を使う会社にとっては、コストが上がる改正でした。
採用支援の仕事で経営者の方と話していると、「派遣と直接雇用の費用を比べ直した」という声を今でもよく聞きます。
派遣をやめて求人メディアに移った会社もある
改正の時期には、派遣から別の人材ビジネスに軸足を移した会社もありました。
私が関西で見てきた中から、大阪の会社を1社紹介します。
キヨウシステムの例
大阪市福島区で1994年に設立された株式会社キヨウシステム(2019年にキヨウグループへ商号変更)です。
同社の旧公式サイトの2013年6月時点の会社概要によると、2003年に一般労働者派遣事業と有料職業紹介事業の許可を取り、業務請負と人材派遣を柱にしていました。
売上高は30億円(2012年4月実績)、社員90名、スタッフ1,300名と書かれています。
その同社が、2013年(平成25年)に人材派遣事業を終えています。
翌2014年6月に事業目的を広告メディア運営事業に変え、同じ年に求人サイト「ENP(エンプ)」を立ち上げました。
2016年のプレスリリースでは、採用が決まった求職者にお祝い金を出す求人メディアとして紹介されています。
派遣をやめた理由は、会社の資料からは読み取れないので、ここで推測はしません。
時期でいえば、2012年改正の翌年にあたります。
代表の関井圭一さんのもとで「人と人との最良なマッチングを創造し、提供する」という理念を掲げていた当時の様子は、関井圭一さんが代表を務めるキヨウシステムの会社概要ページで見られます。
派遣・職業紹介・求人広告の違い
求人広告の営業をしていた立場から見ると、派遣から求人メディアへの移行は、同じ「人を探す」商売でもお金の流れがまったく違う世界への引っ越しです。
| 労働者派遣 | 有料職業紹介 | 求人広告・求人メディア | |
|---|---|---|---|
| 働く人を雇うのは | 派遣会社 | 紹介先の企業 | 広告を出した企業 |
| 会社が受け取るお金 | 派遣料金(毎月) | 紹介手数料(採用時) | 掲載料や成果報酬 |
| 必要な手続き | 許可 | 許可 | 求職者の情報を集めるなら届出 |
派遣会社は、スタッフの給料や社会保険を自社で負担し、雇用主としての責任を負います。
求人メディアは企業と求職者を引き合わせる役で、雇用の責任は負いません。
なお求人メディアも、2022年10月の改正職業安定法から、求職者の情報を集めて提供する場合は厚生労働大臣への届出が必要になっています。
改正のたびに雇用主としての義務が増えていく派遣と比べると、身軽に見えるのは確かです。
ただ、求人メディアは求人を集める営業力と求職者を集める集客力の両方が要るので、別の苦労があります。
2026年の人材業界と、派遣会社を見るときのポイント
会社の数は半分になりましたが、市場は縮んでいません。
厚生労働省の労働者派遣事業報告書の集計結果によれば、2024年度の派遣労働者は約220万人、年間売上高は9兆9,005億円で、前年度より9.4%増えています。
一方で、小さな派遣会社の経営は楽ではありません。
帝国データバンクの調査では、2025年1〜8月の労働者派遣業の倒産は59件で、同じ期間としては2013年に次ぐ過去2番目の多さでした。
人手不足で派遣スタッフが集まらないことや、賃上げによるコスト増が響いているとされています。
2026年10月1日からは、省令と指針の改正が施行されます。
派遣会社は、雇い入れるときや派遣するときに「派遣先の社員との待遇差の内容や理由について説明を求められる」ことを伝える必要があります。
法律そのものの改正ではないので、3年ルールや日雇派遣の原則禁止といった骨組みは変わりません。
派遣会社を選ぶ側、派遣で働く側が見ておきたいのは次の点です。
- 厚生労働省の「人材サービス総合サイト」で、許可番号が確認できるか
- マージン率や教育訓練の内容をインターネットで公開しているか
- 労使協定方式か派遣先均等・均衡方式か、待遇の決め方を説明してくれるか
- 3年たったときの雇用安定措置について、事前に話ができるか
許可の有無やマージン率は、どれも法律で公開や確認の仕組みが決まっているものです。
ここをきちんと見せてくれる会社かどうかで、ずいぶん印象が変わります。
まとめ
労働者派遣法は、2004年までは派遣できる範囲を広げ、2012年以降は派遣で働く人を守る方向に変わってきました。
- 2012年の日雇派遣の原則禁止で、短期の仕事の集め方が変わった
- 2015年の許可制への一本化で、派遣元事業所の数はほぼ半分になった
- 2020年の同一労働同一賃金で、派遣料金も賃金も上がった
- 派遣をやめて求人メディアや職業紹介に移った会社もある
会社の数が減っても市場が大きくなっているのは、ルールを守れる会社に仕事が集まってきたからだと私は受け止めています。
派遣を使う方も働く方も、年表のどのあたりのルールが今の自分に関係しているかを一度確かめてみてください。
最終更新日 2026年9月24日